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青山税理士事務所
  

歴史文学

明治維新

 D・マッカーサーは日本政府を指導するため、憲法草案の起草を発令した。
 国家主権の発動としての戦争は、廃止される。日本は、紛争解決の手段としての戦争のみならず、自国の安全を維持する手段としての戦争をも放棄する。日本は、その防衛と保全とを、今や、世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる。日本が陸海空軍を維持する権能は、将来とも許可されることがなく、日本軍に交戦権が与えられることもない。
(マッカーサー・ノートによる)
 民政局で憲法草案作業に参画したのは、弁護士出身のホイットニー准将、弁護士四名、前下院議員一名、行政法の専門家一名、中国史を専攻した者一名、戦前の日本に造詣がある社会科学者三名を含む二十五人であった。この中に一国の憲法を起草する見識を備えた人物は一人もいなかった。
 しかも、二十五人中の二十一人による六日六晩の俄仕込みで、総司令部の英語による憲法草案の起草は完了した。
 〔1〕
 憲法九条の出自 参照

 私たちは、この「異形の憲法」を改正することなく戦後を生きてきた。東日本大震災から10年、福島ではトリチウム問題が棚ざらしになったままである。三重水素といわれ各国は国際水準に従って、希釈して海洋放出している。トリチウムは河川や、雨水にも含まれている。原因は風評被害を煽る一部の勢力によるものだ。

 憲法問題も、トリチウム問題も、安全保障や現実の生活すらイデオロギーに支配され、防衛や科学の理解が蔑ろにされてしまった。戦前の全てを否定して、歴史の連続を断ってしまった愚かさといえるだろう。

 2020年のアメリカ大統領選挙で、SNSが現職大統領のアカウントを抹消等したことに危機感を抱くこともなく、このまま過激な思想に翻弄されるならば、私たちは未来に対してどのように言い分けするのだろうか。

 どうしても、エマニュエル・トッドの箴言が頭から離れない。
 歴史に対して何一つビジョンを持っていない人が歴史を、そしてその延長線上にある現在や未来を思考するというのは非常に難しいのです。不可能だと言ってもいいでしょう。
 涸轍の鮒魚(補考) 参照

 歴史について考える際に、いわゆる「司馬史観」のようなイデオロギーに拘泥してはいけない。「司馬史観」は、「歴史小説」のなかで確立され人口に膾炙したものだ。
 とはいえ、私は旅行をする際には、必ず、「街道をゆく」をチェックする。司馬遼太郎氏がどのように感じていたかという司馬氏の思考を参考にするためである。

 日本は「歴史文学」を持たない。唯一の金字塔は、未完に終わった大佛次郎氏の「天皇の世紀」だろう。
 「天皇の世紀」は、朝日新聞に掲載され評判になった。大佛次郎氏が病魔の中で、6年半に亘って掲載し、連載1555回、昭和48年4月25日の紙面をもって未完成のまま筆が断たれた。

 以下、死との格闘から生まれた大作――文庫版刊行によせて 中野好夫から
 
ほぼ連載二カ年を迎えた時期に、作者大佛氏の書かれた小文に、次のような一節がある。
 「天皇の世紀」を明治百年に結びつけて考えてくださると間違います。私は「天皇の世紀」を現代の目で見て書いております。(中略)共通して日本人の心の動きに在る無目的に一方に雪崩がちになる性格や、今日も在る前々(ママ)代の一遺産についても、一々考えて行きたいと思っています。つまり天皇の世紀の間に現れた日本的な現象を読み取りたいです」と。
 また別のある小文では、「今日も残存している日本人の国民的性格が「天皇の世紀」を通じて描き出せたらと思うのみである。西郷も私だし、木戸も私である」とも述べている。


 欧米の植民地におけるプランテーション(日本の韓国併合はここでいう植民地にあたらない)、奴隷貿易、イギリスの三角貿易、アヘン戦争及び第二次アヘン戦争(アロー戦争)等に対する日本人の危機感が明治維新の原動力になっている。また、グレートゲームの視点も欠かせない。
 グレート・ゲーム(地政学から見る明治維新)

 高島秋帆、高野長英及び渡辺崋山等は、海外の空気を体感していたが、幕末に活躍した吉田松陰等は古い考えのままであった。彼らは、古い教養のまま奔走したのである。その過程で、佐久間象山等が松陰達を援助して大きなうねりになった。
 崋山や長英等が苦しんだ末に死に就いた時代から、時代は大きく動いていった。やがて、黒船の来航によって、動かずにおれない状況になって行く。「日本人の心の動きに在る無目的に一方に雪崩がちになる性格」が、いい方向に向かうのである。

 松陰の遍歴も二十五歳で終わり、僅か三十歳で刑死するまで牢獄と幽閉の中で、弟子たちを育て送り出していく。
 日本史を書いたG・B・サンソム卿は、松陰について「外国の研究者がなぜ彼があれほどまで同時代人の心に強い影響を及ぼし、また後世の人から法外に賞賛されたかを理解するのは、容易なことではない」と述べている。おそらく、日本人でなければ理解できないだろう。

 

 参考書籍等
 〔1〕江藤淳著「一九四六年憲法ーその拘束」文春学芸ライブラリー 2015.4.20発行
 〔2〕大佛次郎著「天皇の世紀1 黒船来航」朝日新聞社 1988.5.30発行



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