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税理士・社会保険労務士
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独立自尊

遠い国の出来事ではない

 日本の安全保障環境が激変している。東芝の経過を見ていると、「会社は誰のものか」ということを改めて考えさせられる。同時に、「安全保障について日本ほど無頓着な国はないだろう」と、つくづく思う。
 因みに、「安全保障」とは「
外部からの侵略に対し国家の安全を保証すること(大辞林より)をいう。観念ではない、リアリズムである。

 R4.12.25の産経新聞(朝刊)によると、東芝については、アクティビスト(東芝の株式を所有している、いわゆる「ものいう株主」)が日本産業パートナーズ(JIP、優先交渉権を取得している国内ファンド)の提示額に納得できるかどうかという局面らしい。JIP案には、オリックスやロームなど日本企業約20社が約1兆円規模の出資を予定しているそうである。

 かつて、会社は地域の雇用を護り、生活必需品等を安定的に供給することで国民生活を維持してきた。やがて、経済的合理性が優先され、グローバリゼーションが加速した。

 1970年代に、ミルトン・フリードマンの「株主資本主義」が嚆矢となり、新自由主義が席巻した。社会的存在であった企業は株主資本主義により、投資効率の最適化を求めて生産拠点を海外に移転した。
 かつて、土光敏光がメザシを食べる姿が映像になり、その質素な生活が話題になった企業の社会性は雲散霧消し、遠い昔の物語になった。

 「株主資本主義」の視点で現在のウクライナを俯瞰すれば、アメリカとイギリスがウクライナを「NATOの事実上の加盟国」にして、ロシアの暴発を誘発した事実は等閑できない。それは、「新たな需要の創造」になるからである。

 エマニュル・トッドは、西欧とアメリカではウクライナ戦争の反応が異なっているという。イギリス、フランス及びドイツ等の西欧諸国では、地政学的思考や、戦略的思考が姿を消し皆が感情に流されている。一方、アメリカでは、地政学的、戦略的視点から論じられているという。

 ジョン・ミアシャイマーは、「まず、感情に流されず、リアルポリティクスの観点から、戦争の原因を考えなければならない」と問題提起をする。そして、ミアシャイマーが出した最初の結論は、「今起きている戦争の責任は、プーチンやロシアでなく、アメリカとNATOにある」という。

 ドイツ統一が決まった1990年の時点で、「NATOは東方に拡大しない」という約束がソ連に対しなされていた。1990年2月9日、アメリカのベーカー国務長官も「NATOを東方へは1インチたりとも拡大しないと保証する」と伝えている。

 しかし、その後二度にわたってNATOを東方に拡大した。しかし、ロシアは不快感を示しながらNATOの東方拡大を受け入れた。しかし、プーチンは緊急記者会見を開き、「ジョージアとウクライナのNATO入りは絶対に許せない」と警告し、「ロシアにとって越えてはならないレッドラインだ」を警告してきた。

 2014年2月22日、ウクライナで、「ユーロマイダン革命」と呼ばれるクーデタが起きた。民主主義的手続きによらず親EU派によってヤヌコビッチ政権が倒されたのである。この後ロシアはクリミアを編入し、親露派が東部ドンバス地方を実効支配した。それは、住民の大部分がこのクーデタを認めなかったからだ。

 ウクライナはNATOの加盟国ではない。しかし、ロシアの侵攻が始まる前の段階でウクライナは、「米英の衛星国」、「NATOの“事実上”の加盟国」になっていたとミアシャイマーは指摘する。アメリカとイギリスが、高性能の兵器を大量に送り、ウクライナを武装化していた。ウクライナ軍の予想を上回る抵抗は、アメリカとイギリスの軍事支援の成果なのだ。

 冷戦終結後、アメリカはロシアに対して二つの戦略目標を持っていた。
 ① ロシアの解体
 ② 冷戦後もロシアとの対立構造を出来るだけ長く保持して、アメリカとロシアの緊張関係を保持することで、ヨーロッパとロシア(ユーラシア西部)の統一を阻止する。

 世界の人口と経済活動の主要部分はユーラシアにあり、アメリカの国民生活を維持する商品とカネもユーラシアから流入する仕組みになっている。したがって、アメリカにとってヨーロッパとロシアとの接近、また、日本とロシアの接近もアメリカの戦略的利益に反することになる。

 ヨーロッパとロシアとの関係、日本とロシアの関係が平和的に構築されてしまうと、アメリカのプレゼンスが失われてしまうのだ。

 極論すると、NATOや日米安保は、日本やドイツという同盟国を守るためのものではない。「ドイツや日本をアメリカの支配下に置くためのもの」だ。

 今後、ヨーロッパもノルド・ストリーム2が止められ、ロシア嫌いが浸透するだろう。そして、日本も北方領土交渉が暗礁に乗り上げ、アメリカ依存に傾斜していくだろう。
 〔1〕参照

 アメリカが「日本の核武装」より、「日本が中国に乗り換える」シナリオのほうが悪いと判断すればどうだろう。アメリカは①を許すだろうか。絶対にあり得ないことは容易に想像できる。残念ながら、日本に残されたシナリオは①②以外の「ぶれない同盟国(従属国)」だけである。

 R4.11.3「ウクラアイナ危機後の世界」で「日本の核武装」についてほんの少し触れている。このテーマとは関係がないが、時間があれば読んでほしい。
 〔2〕参照


 参考書籍等 
 〔1〕「第三次世界大戦はもう始まっている」 エマニュエル・トッド著 大野舞訳 文春新書 2022.7.10発行
 〔2〕「米中もし戦わば」 ピーター・ナヴァロ著 赤根洋子訳 文藝春秋 2017.2.1発行






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