プライマリーバランス
損益思考から複合思考へ
プライマリーバランス(以下PB)とは「税収」から「歳出」(国債返済の元本と利子の支払いを除く)を控除した額である。これを黒字にすることを、いわゆる財政再建といっている。企業実務の感覚では、単年度の損益(P/L)だけをみて、黒字、赤字と騒いでいるようなものだ。
グローバル企業では、役員のインセンティブがストックオプション等のように自社株になっていて、経営者は株価を意識して短期の損益を重視するようになった。PB偏重も全く同じで、なぜ、複眼でみないのだろうかといつも思う。
国の借金(以下債務)を直接減らそうと思えば、歳出を切り詰め緊縮財政にするしかなく、これではPB悪化のスパイラルになってしまう。まさに、日本の現状であるが、企業実務における短期損益重視型思考と全く同じであって、戦略的な投資により売上を増やし、安定的な利益を確保するという発想が全くない。
PB黒字化に拘束されたギリシャは、PBの黒字化によって破綻した。消費税増税により財政再建をめざして、消費が落ち込みデフレに舞い戻った日本も似たようなものである。
財政再建とは、債務の金額を直接減らすのではなく、債務(正確には総債務から総資産を控除したネットの額・日本のように厖大な資産を持っている国ではとても重要なこと)の名目GDP比の拡大を抑制することである。
債務の名目GDP比を圧縮するためには、名目GDPを増やせばいい(経済成長すればいい)のであって、財政政策が求められる所以である。
A:(債務残高÷名目GDP)の変化分
B:-(PB÷名目GDP) ◎PBが黒字であれば財政改善
A≒B
債務残高が増えても、それ以上に名目GDPが増えればAはマイナスになる。Bからみても、名目GDPが増加してPBがプラスになるには、「税収」を増やせばいいことになる。PBの黒字化は、歳出削減ではなく税収の増加によらなければならない。
デフレの最中で税収を増やすには、政府がお金を使う(財政政策を実施する)しかないのである。
ところが、消費税増税によって財政再建を謳いながら、消費が落ち込みPB黒字化が覚束なくなっている。財政再建のために公共工事等を圧縮し、規制を緩和して市場原理を取り入れ、「コンクリートから人へ」というお伽噺のようなキャッチコピーが今だに残存して、デフレのピン止めをしている。
現実は真逆なのである。「21世紀の資本」でも、「債務残高÷名目GDP」の改善は経済成長の結果であったといっている。
1815-1914年のまる1世紀にわたって、イギリス政府の財政基礎収支は、常に相当な黒字だった。つまり、GDPの数パーセント分、常に税収が支出を上回っていた。
・・・・・結局のところ、1世紀にわたる苦行の果てに、国民所得に対するイギリスの公的債務比率がやっと大幅に減ったのは、イギリスの国内生産と国民所得の成長(1815-1914年は、年間およそ2.5パーセント)のおかげでしかなかった。
〔2〕137~138頁
参考書籍
〔1〕高橋洋一著「アベノミクスの逆襲」㈱PHP研究所 2014年11月19日
〔2〕トマ・ピケティ著「21世紀の資本」山形浩生外訳 ㈱みすす書房 2014年11月28日