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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

第24章 雇用、利子、お金の一般理論

トリクルダウンというまやかし

 消費税が8%になった後法人税減税が喧伝されたが、消費税増税は消費者から法人への所得移転を意味している。法人税を下げれば設備投資が促進され、給与が上がるというトリクルダウン理論である。
 一定の富裕層に富を集積すれば、手から水が零れるように下層まで滴り落ちるという主流派経済学の理論であるが、実際はトリクルダウンは起きず、アメリカでは1%の富裕層とその他の99%の格差社会になりつつある。

 ジャクディッシュ・バクワティ教授は、貧困の救済はトリクルダウンではなく経済成長だといい、J・スティグリッツ教授も「世界の99%を貧困にする経済」において、下層から上層へ金を移動させれば消費は落ち込む。なぜなら、低所得者より高所得者のほうが、所得に占める消費の割合が少ないからだ。

 アメリカの上位1パーセントの人々は、国民所得の約20パーセントを稼ぎ出している。彼らの貯蓄率を20パーセント、中下層の貯蓄率を0パーセントと仮定し、国民所得の5パーセント分を上層から中下層へ移転すれば(上層にはまだ15パーセント分が残る)、総需要を”直接”1パーセント押し上げることができる。しかし、所得の移転がなされず、上層の稼ぎがそのまま再循環した場合、総需要の押し上げは約4分の3パーセントにとどまる。

 所得移転の結果、上層の貯蓄分だけ総需要を押し上げるが、所得の移転がないと、再循環分から上層の貯蓄分が再度控除され、押し上げ効果は減少し格差はますます広がる。仮に、1パーセントの富裕層に対する適切な課税(所得移転)をすれば、スムーズな所得の再配分が可能になり、格差は是正されるだろう。それゆえ、主流派経済学者は政府の介入を排除して、自分たちの稼ぎ増やす自由競争を謳うのである。

 FRB議長候補にもなったL・サマーズ氏やP・クルーグマン教授も、急進的な自由貿易を厳しく批判している。H・ミンスキー氏が「金融不安定仮説」を唱えた時、殆ど見向きもされなかった。リーマンショックを経て複雑で不安定な市場が生来持っている危険性が明らかになってはじめて、「金融不安定仮説」は実証されているのである。

 この答えは、M・ケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」の第24章にある。

 
こうした発想の実現は非現実的な希望なのでしょうか? 政治社会の発達を律する動機面での根拠があまりに不十分でしょうか? その発想が打倒しようとする利権は、この発想が奉仕するものに比べて強力だしもっと明確でしょうか?
 ここではその答を出しますまい。この理論を徐々にくるむべき現実的手法の概略を述べるのでさえ、本書とはちがう性質の本が必要となるでしょう。でももし本書の発想が正しければ——著者自身は本を書くときに、必然的にそういう想定に基づかざるを得ません——ある程度の期間にわたりそれが持つ威力を否定はできないだろう、と私は予言します。現在では、人々はもっと根本的な診断を異様に期待しています。もっと多くの人は喜んでそれを受け入れようとし、それが少しでも可能性があるようなら、喜んで試してみようとさえしています。

 でもこういう現代の雰囲気はさて置くにしても、経済学者や政治哲学者たちの発想というのは、それが正しい場合にもまちがっている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです。というか、それ以外に世界を支配するものはほとんどありません。知的影響から自由なつもりの実務屋は、たいがいどこかのトンデモ経済学者の奴隷です。虚空からお告げを聞き取るような、権力の座にいるキチガイたちは、数年前の駄文書き殴り学者からその狂信的な発想を得ているのです。
 こうした発想がだんだん浸透するのに比べれば、既存利害の力はかなり誇張されていると思います。もちろんすぐには影響しませんが、しばらく時間をおいて効いてきます。
 というのも経済と政治哲学の分野においては、二十五歳から三十歳を過ぎてから新しい発想に影響される人はあまりいません。ですから公僕や政治家や扇動家ですら、現在のできごとに適用したがる発想というのは、たぶん最新のものではないのです。 でも遅かれ早かれ、善悪双方にとって危険なのは、発想なのであり、既存利害ではないのです。
 〔1〕


  参考書籍
 〔1〕ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」山形浩生訳 講    談社学術文庫
 〔2〕スティグリッツ,ジョセフ・E.世界の99%を貧困にする経済 /楡井 浩一/峯    村 利哉 徳間書店



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