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本稿は行間と文字間が狭く読みづらかったため、修正して再掲したものである。
あまりの長きにわたり、経済学者たちは自分たちを、その科学的と称する手法で定義づけようとしてきた。
実はこうした手法は、数学モデルの過剰な使いすぎに依存したものでしかない。過剰な数式モデルはしばしば、単なる埋め草であり、内容の空疎さを隠す口実でしかなかった。
あまりに多くのエネルギーが、これまでも今でも、純粋に理論的な考察に無駄遣いされ、そこで経済学者が説明しようとしている経済的な事実認識も明確でないし、解決しようとしている社会問題や政治問題の実情すら明確にされていない。
〔1〕605頁
ピケティ教授は、数学を専攻後経済学に転向しています。そのため、一層示唆に富んでいますね。
「21世紀の資本」を理解するために、まず、キーとなる用語の定義と簡単な算式を捉えておくといいと思います。そのうえで、公開されているデータを見れば主張も見えてくるかもしれません。
発刊前の限られた情報では、「資本」の定義も確認できませんでしたが、それも踏まえて以下簡単に纏めてみます。
「国民資本」:
資本、富及び財産を入替可能な完全に同義なものとして扱っています。「国民資本」や「国富」は、ある国でその時に政府や国民が所有している、市場で取引されるすべの市場価値の合計です。
それは、負債を控除した純資産(エクィティ)であり、言い換えれば、国民資本とは民間資本と公的資本の合計です。
「国民所得」:
ある国で国民に提供されているその年のすべての所得の総和です。GDPとの関わりで説明すれば、
「国民所得」=国内産出(GDP-減価償却費)+外国からの純収入(A)
世界レベルでみるとAは相殺されますので世界総所得は、次の算式に収斂します。
世界総所得=世界総産出
そして、国民所得は、
国民所得=「資本所得」+「労働所得」、にも分解できます。
β:資本/所得 ある国の総資本ストックが国民所得の何年分に相当するかの比率です。500%、600%(或いは単に5倍、6倍)というように表示します。
γ:資本収益率 資本に係る1年間の全ての収益(利潤、賃料、配当、利子、ロイヤリティ等)の比率
α:資本所得(国民所得のうち労働所得以外の所得)
α=β×γ:資本主義の第一基本法則
例えは、βが600%(資本ストックが年間所得の6倍という意味)で、γ(資本収益率)が5%の場合、その国の国民所得に占める資本所得の割合は30%(600×0.05)になります。
資本/所得の比率が高く、また資本収益率の比率が高いほど、国民所得に占める資産所得の割合は高くなります。
β=s/g:資本主義の第二基本法則 s:貯蓄率 g:成長率
毎年国民所得の12%を貯蓄に回し、国民所得の成長率が年2%の国は長期的には、
資本/所得の比率が、600%(12÷2=6倍)になるという意味です。
ただし、ここで注意すべきは、α=β×γが会計的な恒等式であるのに対し、β=s/gはいくつかの前提条件があり、しかも長期的現象(実現には数十年かかる)であることです。
β=s/gは、動的プロセスであり、貯蓄率s、成長率gの場合に経済が向かう均衡状態(潜在的な均衡水準)を示しています。
ですから、β=s/gが完全に実現することはありません。
γ>g: 本書のすべての論理の根本となる不等式
γ:資本収益率(上記のとおり) g:成長率(上記のとおり)
この不等式も論理的な結論ではなく、歴史的現実であり特定の期間を除いて、相互に独した力が重なり合った結果として成り立ったものなのです。
経済成長が鈍化する21世紀も、この不等式は継続し、むしろその差は確実に広がるだろうといっています。
純粋な資本収益率/概して4〜5パーセント/は、歴史を通じて常にグローバルな経済成長率よりも明らかに高かったが、これら二つの差は20世紀、特にグローバル経済成長率が年3.5〜4パーセントだった20世紀後半※の50年に大きく縮小した。
そして、21世紀には経済成長(特に人口増加)の鈍化につれ、ほぼ確実にその差は広がるはずだ。
〔1〕369〜370頁
※この期間はアメリが牽引したキャッチアップ経済であり、日本の高度成長期と重なります。振り返って見れば、世界史的には特別な期間であって、持続的な成長が実現しました。21世紀に、それは起こり得ないというわけです。
γ>gの結果どうなるかといえば、例えば、g(成長率)=1%、γ(資本収益率)=5%ならば、富める人は年間資本所得の1/5を再投資するだけで、労働所得と同じ割合で資本を増やすことができることになります。
この含意は、無限の不平等が生じるということなのであり、裕福な人の資産は急速に増大するということなのです。
公表されている下記の「図5.8」によれば、β:資本/所得は更に拡大していきます。
http://cruel.org/books/capital21c/xls/
本書/図10-10、「世界的に見た年間収益率と年間成長率」によると、2012年以降の年間資本収益率(課税後、キャピタル・ロス計上後)が3%超から4%超へ上昇傾向であり、年間成長率は4%未満から1.5%超へ減少する明らかな下降傾向を予測しています。
結論
α=β×γ算式の、β(資本/所得)は「図5.8」のとおり上昇予測されています。γ(資本収益率)も上昇傾向ですから、α(資本所得)は増加します。
加えて、β=s/gにより、少なくともs(貯蓄率)を一定としても、g(成長率)は将来的に低下していくわけですから、β(資本/所得)が拡大する方向に収斂します。
そうすると、α(資本所得)は更に増加していく格差拡大の循環になります。図5.8では資本を民間資本で見ていますので、格差拡大のメカニズムも見えてきます。
ただし、
γ(資本収益率)>g(成長率)が覆らないかぎり。
参考文献
〔1〕トマ・ピケティ著「21世紀の資本」山形浩生・守岡桜・森本正史訳
鰍ンすす書房 2014.11.28発行