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未熟な平和主義の陥穽

サバイバルを保証するものは自助努力である

 以下、「空気の研究」山本七平著、2012.4.10文春文庫の一節である。

 
以前から私は、この「空気」という言葉が少々気になっていた。そして気になり出すと、この言葉は一つの“絶対の権威”の如くに至る所に顔を出して、驚くべき力を振るっているのに気づく。「ああいう決定になったことに非難はあるが、当時の会議の空気では・・・・・」、「議場の時の空気から言って・・・・」、云々。 

 日本では自己主張を避ける文化がある。山本七平はこれを「空気」であると喝破したが、私自身も若い時に経験したことである。私は工業高校卒業後就職したが、思うことがあり3年後大学に入学した。
 しかし、大学卒業時、(結果としていわゆる三浪になるため)新卒扱いにならず入社試験すら受けることができなかった。数社の企業を訪問したが、規定だからといわれ途方に暮れた経験がある。「捨てる神あれば拾う神あり」とはよく言ったもので、とある地方銀行(当時相互銀行)が例外を認めてくれ、目出度く就職することができた。
 しかし、一風変わった経歴のため、職場の「空気」になじめず3年余りで退職した。

 現在の日本を席巻している「空気」は、「美辞麗句で虚飾された平和主義」である。この空気はリアリズムと対極であり、日米戦争を戦った先人に対する「裏切り」に他ならない。それは、E・H・カーが「危機の二十年」で喝破した「ユートピアン」に通底する。

 一方、リアリズムでは、
 最近の三十年間の米ロ関係の悪化の重要な原因は、
 ①米政府が、「我々はNATOを拡大しない。我々はロシア封じ込め政策を採用しない」という約束を破棄したことである。
 ②米政府と米金融業者が、「ロシアの経済改革に協力したい」いう美名の下に実行した、ロシア経済の巨大な窃盗行為である。
  これらは、ソ連崩壊によって窮乏化していたロシア国民に対する裏切りに他ならない。
 ・・・ということになる。

 このような米政府の裏切りを正面から批判したのは、ジョン・ミアシャイマー、ウィリアム・コーエン、ジョージ・ケナン、サミュエル・ハンチントン及びケネス・ウォルツ等の少数の知識人だけであった。

 レーガン政権で5年間駐露大使を務めたジャック・マトロックは、引退後の著作のなかで、冷戦構造を解消した国際政治の一方の勝利国であるロシアを、クリントン政権はまるで日本のような敗戦国として扱い始めたといっている。

 また、「NATOを東方に拡大しない」というロシアと約束を、クリントン、ブッシュ(息子)、オバマ、バイデン政権の高官たちは、「あれはたった一回だけの口約束に過ぎない」等の言い訳を繰り返してきた。

 しかし、ワシントンDCの政府文書の公開システムによると、「NATOを東方に拡大しない、ロシア封じ込め政策を実行しない」という約束は、当時の米政府高官等だけでなく、英仏独三政府の大統領・首相・外相レベルの高官も、ロシア側に伝えていたことが理解できるのだ。

 1999年9月21日、CIAのロシア政策・最高責任者であったフリッツ・エマースは重要な議会証言をしている
 
現在のロシア経済は泥沼状態である。“民主主義的な資本主義”と称される経済において、政府公認の経済犯罪が横行している。“ロシアの民主主義”とは虚妄の民主主義であり、“ロシアの資本主義”は虚妄の資本主義である。これは、ロシア国富の単なる窃盗行為にすぎない。・・・・・、現在のロシア国民は資本主義体制を憎悪している。

 
この腐敗した“経済民営化”によってロシア国富を窃盗した犯罪者たちは、2,000億ドルから5,000億ドル(約26兆円~65兆円)の利益を国外に持ち出した。彼らはこの資金の大半を、マネーロンダリングしてアメリカの金融市場と、不動産市場に入れた。そして、民主党と共和党の政治家たちが恩恵をうけたことは想像に難くない。

 その結果、ロシア人は権威ある強い指導者を望むようになった。そして、登場したのがプーチンである。

 現在の米ロ戦争を、アメリカの保守派・国際政治学者であるキッシンジャー等は、「ロシアの防御的な行動」だと指摘している。奇妙な平和主義に翻弄されている日本では、「ロシアは悪い国だ」となるであろうが、伊藤貫氏によると「これはノーマルな国際政治のパターンだな」というわけだ。

 伊藤貫氏は、「二十一世紀前半期の国際政治の最重要テーマは、「米中露三国の覇権戦争」となるだろう」予見している。

 
国際政治の行動主体はnation-stateであり、国際組織や同盟関係や紛争処理機構ではない。本質的にアナーキーな国際社会において自国のサバイバルを最終的に保証できるのは、自国の自助努力だけである。

 1945年に敗北した日本は、数年後か十数年後、もう一度敗北するだろう。奇妙な「空気」が蔓延して、リアリズムを蔑ろにしている。「自分の国は自分で守るしかない」というリアリスト外交の大原則からひたすら逃げ続けてきた日本人にふさわしい最後である。日本は「チャイナの奴隷民族」になるであろう。




 参考書籍等
〔1〕 空気の研究
    山本七平著 文春文庫 2012.4.10
〔2〕 三十年間、ロシアを弄んできたアメリカ
    伊藤貫/ 表現者 クライテリオン7月/2022
〔3〕 長期化する米中露覇権戦争と日本の最後
    /伊藤貫 表現者 クライテリオン11月/2022

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