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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

西洋の自死

テセウスの舟

 平成30年12月7日、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立し同月14日に公布された。
 さて、日本はこれからどのように変質していくのだろうか。

 
 
 英国の代表的な雑誌の一つ「スペクテイーター」のアソシエート・エディターであるダクラス・マレー氏の「西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム」(The Strange Death of Europe  Immigration,Identity,Islam )は、英国でベストセラーになった話題作である。
 巻頭の解説で中野剛志氏がいうように、単なるディストピアではなく欧州で現実に起きていることだ。

 テセウスは古代アテネの王である。修理によってテセウスの舟の部材が全部入れ換われば、最早テセウスの舟ではないのではないか。というテーゼが「テセウスの舟」だ。原題の「The Strange Death of Europe」のほうがその深い意味合いを感じやすい。

 オックスフォード大学のデビット・コールマン人口学教授は、2011年の国勢調査で「自分は白人の英国人」だと答えた人々は、2060年代には英国の多数派にならないだろうという。英国が積極的な対策を講じないかぎり、その時期は早まることになると。
 このことは単なる人口の対比に止まらず、キリスト教とイスラム教という文化の対立にも繋がる。同年のイングランドとウェールズの国勢調査によると、前回の調査以降10年間で、自分はキリスト教徒であると回答した住民の割合は72%から59%に低下した。

 実数で示せば400万人以上の減少であり、一方、イスラム教徒は2倍近く増え、150万人から270万人に増加している。国勢調査に現れない不法移民も含めれば実数はさらに増加する。少なくとも、不法移民は100万人いると考えられるのだ。

 日本が数周回遅れで本格的な移民の受け入れを決めたように、英国も1948年から移民が解禁され、フランス、オランダ及びドイツ等も追随した。
 労働市場の需給ギャップの補填が優先され(現在の日本を見るといい)、コンセンサスなどあろうはずもなく、彼らの帰国すら定かでなく、親族を呼び寄せることなど想定もしていなかった。

 人口の高齢化による労働力不足を補うため移民を増やさなければいけない。グローバル化の流れは止められない、移民は経済成長に必要なのだ。かつて、欧州でもエリートは声高に主張したのである。
 とはいえ、英国にも憂国の士はいた。当時の保守党の「影の内閣」で閣僚だったイーノック・パウエルは、彼らの大多数は将来、移民の血を継ぐ人口の増加に貢献するだろう。
 「この国はまるで自分自身を火葬する薪をあくせく積み上げているかのようだ」と警鐘を鳴らした。しかし、保守党党首のエドワード・ヒースはパウエルを解任し、パウエルは主流派からの支援を断たれ、政治生命をも絶たれた。

 1984年1月、ブラッドフォード市で生徒の90%が移民の親を持つ地域の校長だったレイ・ハニーフォード氏は、少部数の雑誌に寄稿した。
 イスラム教徒の父親の文化的慣習の違い(ダンス、演劇、スポーツなどの授業に参加させない。学期中に我が子をパキスタンに連れて帰る)を指摘し、行政が黙認していることにも触れた。同時に、自分が住んでいる国の言語を話し、住んでいる国の文化を理解することを主張した。

 ところが、イスラム教徒だったブラッドフォード市長は、ハニーフォード氏の更迭を要求し、彼を「文化的排外主義者」として非難した。ハニーフォード氏は辞職を余儀なくされ、教育界から追放された。
 以後、「多文化主義」の美名のもと移民が増えていった。おそらく、日本もそうなる。「文化的排外主義者」と非難される不幸な愛国者も生まれるだろう。

 移民は受入国の賃金低下を招き、受入国の福祉にただ乗りする。長期的には経済成長の足枷になり、国家を分断する。移民は稼いだお金を本国に送金するので、国内消費が促進されることもないのだ。長期的には利益を享受する人達と、そうでない人達と移民の住み分けも進むだろう。

 なぜ欧州人はかくも移民を受け入れてきたのだろうか。マレーは、過去のホロコースト、植民地主義、人種差別主義による罪悪感という「歴史からの恐喝」を引き受けているからだという。
 GHQによって軍国主義悪玉論を植え付けられ、国防の概念すら喪失して、リベラリズム全体主義に翻弄されている日本人には、この感覚は頷ける。

 ※
欧米の植民地は、英国における二つの三角貿易、プランテーション、原住民虐殺及び奴隷貿易等なので、日本の朝鮮統治と混同してはいけない。日本の朝鮮統治は条約によるもので、インフラ整備やハングルの普及等もしている。朝鮮は当時における「植民地」ではない。

 欧州では、2000年代を通じて移民の集団による地元女性の性的暴行が多発したが、これも公然の秘密になった。

 色黒の男たちが白人女性を凌辱する趣味があると臭わせることが人種差別主義につながり、議論することさえままならなくなった。欧州にくる移民の大半が若い男性だという事実に触れるだけで、2015年には非難を招いた。
 当局も大衆も、人種差別主義者であるという非難に晒されることを恐れ、この問題を避けてきた。

 とはいえ、2010年のアンゲラ・メルケル首相の演説を機に、欧州各国では移民の同化政策の誤りを認めるようになった。同時期に行われたドイツの世論調査では、47%が「イスラム教はドイツになじまない」という意見だった。
 欧州人は膨大な数の移民を見て、欧州人と全く異なる生き方をしているのを見て、彼らがやがて優勢になるかもしれないと思うようになった。少なくとも、大衆の間においてはだ。

 「西洋の自死」はマレーによる精緻な論考と実証により構成されているので、批判に晒されることもなくベストセラーになった。そのこと自体が、最早、「西洋の自死」を誰も否定できなくなったということだ。巻頭の中野剛志氏の指摘である。

GHQによって骨抜きにされた日本人が、数周回遅れで、愚かにもこれから辿ろうとする道である。本書を是非読んでいただきたいものだ。

 参考:イスラム教について
 「イスラム」とは、服従を意味するアラビア語である。イスラム教徒は神に服従することこそが正しい道であり、それによってしか来世での救済はありえないという教えだ。神への服従とは神から預言者として選ばれた「ムハンマド」への服従であり、彼の死後は彼の後継者である「カリフ」への服従である。

 「神の言葉」とされるのが「コーラン」であり、「コーラン」から導かれる解釈がイスラム教の教義なのだ。キリスト教徒の欧州人も私達日本人も、「コーラン」の教えを守らないから殺せと命じられている不信仰者なのである。

 2016年7月1日のバングラデシュのダッカ・テロ事件で、拘束された日本人が英語で「私は日本人だ、撃たないでくれ」と懇願したそうだが、だめだったのだ。自分達の敵と見なす人々を殺すジハードも、過激派だからではなく、神の約束の成就なのである。

 コーラン第12章40節
 「裁定は神のみに属し、あなたがたは彼以外の何ものにも仕えてはならないと(神は)命じている」

 コーラン第47章4節
 「あなたがたが不信仰者と出会った時はその首を打ち切れ」

 かつて、イスラム教は「コーラン」や数十万から数百万といわれる「ハディース(ムハンマドの言行録)」を暗記したイスラム法学者を介してしか知り得ないものだった。
 しかし、インターネットの普及によって、アラビア語がわかれば誰でも容易く触れることができるようになった。また、翻訳もあり、このような環境の変化がイスラム教の拡散を加速させている。
 〔2〕参照

 H31.3.6補考
 イスラム教権威の「一夫多妻は女性に不公平」発言に大衆大激怒
 http://www.iiyamaakari.com/2019/03/blog-post.html?m=1

 インターネットによって「コーラン」や「ハディース」に容易く触れることができるようになった結果、イスラム法学者という権威によるコントロールが利かなくなった。「アルカイダ」がイデオロギー化したように、反世俗化が進行するのではないだろうか。


参考書籍
〔1〕ダグラス・マレー著 町田敦夫訳「西洋の自死」 東洋経済新報社 2018.2.1
〔2〕飯山陽著「イスラム教の論理」㈱新潮社 2018.2.20




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