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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

新古典派理論の虚構

引き継がれる所得分配の不平等

 

 令和元年10月1日より、消費税が10%になった。社会保障の財源は所得移転か、保険料徴収によるものだが、消費税を社会保障の財源に充てるという、前代未聞の珍事が日本で起きた。
 ウォール・ストリート・ジャーナルは、日本の消費税増税は「自傷行為」であると報じたが、下記に記載しているように消費税は下層から上層への所得移転である。

 富は上層に集約すれば、上層から下層へ、手から水が溢れるように滴り落ちるというトリクルダウン仮説も、なにやら、うさん臭さを感じるようになった。

 ジャクディッシュ・バクワティ教授は、貧困の救済はトリクルダウンではなく経済成長だといい、J・スティグリッツ教授も「世界の99%を貧困にする経済」において、下層から上層へ金を移動させれば消費は落ち込む。なぜなら、低所得者より高所得者のほうが、所得に占める消費の割合が少ないからだという。
 消費税は、下層から上層へ資金を移動させる効果(逆進性)を持つ。

 アメリカの上位1パーセントの人々は、国民所得の約20パーセントを稼ぎ出している。
 彼らの貯蓄率を20パーセント、中下層の貯蓄率を0パーセントと仮定し、国民所得の5パーセント分を上層から中下層へ移転すれば(上層にはまだ15パーセント分が残る)、総需要を”
直接1パーセント”押し上げることができる。
 しかし、所得の移転がなされず、上層の稼ぎがそのまま再循環した場合、総需要の押し上げは”
約4分の3”パーセントにとどまる。

  ■5%の所得移転効果
  5%×0.2(上位所得者の貯蓄率)=1%
  ■所得移転がされない場合
  A 上位所得者の再循環割合
    0.2(上位所得者割合)×0.8(上位所得者の資金循環割合)=0.16
  B 0.2(上位所得者割合)
  A/B=0.16/0.2 → ≒3/4%

 所得移転ができれば上層の貯蓄分だけ総需要を押し上げるが、所得の移転がないと、再循環分から上層の貯蓄分が控除され、押し上げ効果は減少し格差はますます広がる。これが、所得格差拡大のメカニズムである。

 富裕層に対する適切な所得課税(所得移転)をすれば、スムーズな所得の再配分が可能になり、格差は是正されるだろう。しかし、新古典派理論ではこのことは無視される。

 新古典派理論の基礎には、市民革命を経て形成されてきた市民的自由にかんする政治思想があって、それが新古典派理論の基本的性格を規定している。
 居住・職業選択の自由、思想・信仰の自由等の市民的自由をもっと効率的に実現できる経済制度が、市場経済制度であると考える。

 政府の役割は、私有制を維持し、公正で完全競争的な市場制度を運営するということに焦点がおかれた。そのため、新古典派理論は、資源分配の効率性のみに焦点を当てて、所得分配の公正性という側面は殆ど無視してきた。
 「純粋な意味における」市場経済制度という虚構を構築して、その枠組みのなかで、理論的、倫理的演繹を試みたのである。

 新古典派理論の市場経済制度における三つの前提
 一 希少資源の私有制
 新古典派理論にとってもっとも重要な意味を持つ、この前提を否定すると、新古典派理論自体の整合性を失う。
 二 すべての生産要素がマリアブル(malleable・可塑的)ないし非摩擦的である。
 生産手段の使い方にかんして、いつでも自由になんの費用もかけずに瞬時的に、一つの用途から他の用途に変えることができる。
 マリアビリティの条件は、貿易自由化命題などという重要な政策的インプリケーションをもつ新古典派的命題が成立するために不可欠なものである。
 三 所得分配の公正性にかんして、暗黙裡に想定されているものである。

 ソースティン・ヴェブレンは「営利企業の理論」において、機械はひとたび工場に据え付けられると、他の工場で使用したり、他の用途に転用するにはかなりのコストと時間がかかり、労働についても同じことがいえ、マリアブルにはならないと考えた(マシーン・プロセスという)。

 ケインズも一般理論のなかで、資本主義的市場経済制度の下では、完全雇用をもたらす自律的なメカニズムは存在せず、非自発的失業が発生するのはむしろ一般的な事象だとして、完全雇用、物価安定のために有効需要を適切に操作することを促したのである。
 とはいえ、ケインズも新古典派理論の前提である、「一 希少資源の私有制」と「三 所得分配の公正性」に触れることはなかった。

 以後、アメリカはヴェトナム戦争の泥沼化のなかで、景気の停滞・インフレーション(スタグフレーション)と国際収支の悪化というトリレンマに陥り、ケインズ主義は有効性を失うのである。

 反ケインズ経済学として再登場したのが、上記の三つの本質を内在させた新古典派理論だった。マネタリズム、サプライサイド経済学及び合理的期待形成仮説等の先鋭化された新古典派理論は、必然的に政府の機能を制約し、自由な分配機能をできるだけ拡大していく政策を推進した。
 レーガン大統領、サッチャー首相及び中曽根首相が、中央集権の非効率性・反社会性を排除し、民間活力を生かして、民営化、自由化路線をひた走るのである。
 中央集権的な分配機能は否定され、すべての希少資源を可能な限り私的な管理・所有にして、分配の効率を高めた。


  参考書籍
 〔1〕ジョセフ・E・スティグリッツ著「世界の99%を貧困にする経済」楡井 浩一・
   峯村利哉訳 徳間書店 2012.7.31
 〔2〕宇沢弘文著「社会的共通資本」㈱岩波書店 2014.11.25



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