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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

統合政府のバランスシート

現在のできごとに適用している発想は、最新のものではないのかもしれない


 イタリアより深刻な日本(大機小機)
 2018年6月1日 16:26

 イタリアの国債利回りが急上昇した。欧州連合(EU)懐疑派の極右・ポピュリズム(大衆迎合主義)政権の誕生による財政拡張への懸念からだ。このままでは債務危機が再燃しかねない。だが、そのイタリアより財政がずっと深刻なのが日本である。・・・
 安倍政権は借金や利払いを除外する基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を2020年度から25年度に先送りした。一方のイタリアは、基礎的収支の黒字を維持している。財政収支の赤字も国内総生産(GDP)比で1.9%とユーロ基準(3%以内)を満たす。長期債務残高のGDP比は131%とユーロ圏ではギリシャに次ぐ高水準だが、日本の236%とは比べようがない。・・・
 経済大国である日本がなぜこんなことになったのか。少子高齢化が進行中なのに、消費増税を先送りしてきたうえに、社会保障制度にもメスを入れなかった。来秋の消費増税には、経済対策で備える手厚さだ。東アジアの緊張で、防衛費のGDP比1%原則も外されかねない。・・・
 
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO31241840R00C18A6920M00?s=3 

 6月4日、朝一番に高橋氏の上記の「Twitter」を読んだ。高橋氏の憤慨も肯ける日経記事のお粗末さである。私は日刊紙を読まないし、テレビも見ないのでよくわからないが、このような報道が繰り返されているのだろう。

 ECB(欧州中央銀行)はユーロ圏の中央銀行であってイタリアの中央銀行ではないこと、経済通貨同盟のためイタリアは自国通貨(リラ)が発行できないという二つの重要な前提が抜け落ちている。加えて、日本のように膨大な資産を持つ国は、債務から資産を控除したネットで見なければならない。貸方の債務だけを見て、「
長期債務残高のGDP比は131%とユーロ圏ではギリシャに次ぐ高水準だが、日本の236%とは比べようがない」などといっていては、企業経営者に笑われるだろう。

 因みに、ギリシャが破綻したのは、通貨同盟によって自国通貨(ドラクマ)が発行できず、独自の金融政策をとれなかったからである。なお、ギリシャが破綻した前年のプライマリーバランスは黒字だったという、オチまである。

 高橋氏のいう統合政府について考えてみたい。尚、高橋氏は旧大蔵省時代に政府のバランスシートを初めて作った人である。
   国の財務諸表/財務省より    (単位:百万円)
 上記の、水色・肌色の部分は資産・負債が見合いの関係にあり、貸付金、出資金等は独立行政法人等に係るもので、それこそ民営化すればもっとスリムになる。また、複式簿記を採用していないので、資産価額の適正額についてもここでは論じない。

 統合政府とは、政府と中央銀行(以下日銀)の連結ベースB/Sのことで、政府の負債(国債)と日銀の資産(国債)が相殺されるというものである。親子会社は、片方だけ見たのでは財務内容等が判らないので、連結ベースで決算をするというごく当たり前の会計手法だ。
 親会社が100億円を子会社から借入して正味資産がマイナスになっても、子会社との連結ベースで正味資産がプラスであれば、親会社の100億円の借入金は実質「0」なる。財政破綻論は、「親会社の借金が100億円もある、大変だー、破綻するー」といっているに等しい。しかも、子会社の日銀は「通貨発行権」という打ち出の小槌をもっているのに。

 日銀(政府が55%出資している子会社)は株主総会のようなものはなく、したがって、出資者に議決権がない。また、残余財産の分配についても、出資金額と準備金を限度とされている。日銀が通貨を発行して市場で取得した政府国債は、利子(シニョレッジ・通貨発行益)を取得することができる。この利子は国庫納付金として、政府に還元されている(一般会計の歳入金になる)ここもポイント)。

 2,3年前に、高橋洋一氏と田中秀明氏が、日本政府の債務問題について論争を繰り広げていたことがあった。田中氏が統合政府ベースで政府の債務を相殺しても、債務は減らないという主張をされて、高橋氏の統合政府論を非難していた。
 この論争は多様な範囲に及ぶものであったが、最後は日銀当座預金の債務性という、瑣末なこと行き着いたと思う。田中氏が債務性を主張して、高橋氏が反論していた。

 日銀は当座預金(日銀の負債《民間金融機関の預け金等》)を増やして、
市場で国債を取得する。田中氏の主張では、そのまま国債を保有し続ける以上、日銀当座預金は残るので(増やしたまま)債務と同質のものとなる。日銀は通貨を発行するけれど、流通する通貨はせいぜい100兆円強であり、残余は日銀当座預金として残っている。田中氏はこのことが債務性の根拠のように主張されていた。

 ところが、私たち庶民はそんな高尚な意識は毛頭なく、量的緩和は、通貨を増刷するというイメージで捉えている(日銀当座預金と通貨を区別しない)。
 したがって、日銀当座預金は流動性が高く全額が通貨同等とみなされるので、高橋氏のいうように債務とはいえないのではないかと思う。とはいえ、日銀当座預金にマネーを閉じ込めておくことに変わりはなく、インフレのリスクは発生する。というわけで、最後はインフレ論になっていったと思う。

 高橋氏の統合政府についてはもう一つ論点があって、B/Sに徴税権(750兆円と算定している)を加え、日本の財政再建は統合政府ベースで見ればもう達成されているとしている。

 私たちの実務では、毎年100万円の給付を、30年間受ける場合の現在価値を複利年金現価率で算出している。複利年金現価は利率が高ければ、年金の現在価値は少なくなる。
 仮に、利率を1%とすると、年金100万円を30年間支給される場合、複利年金現価(年金受給権の評価額)は、2,580万円という金額になる。毎年の定額収入が確約されている限り、資産価値は現存するのであるからB/S(時価ベース)に計上しなければならない。それが徴税権であり、相続であれば相続財産(年金受給権)となって課税される。

 統合政府のB/Sでは、政府の純債務549兆円から政府の国債(負債)418兆円(H29/3・日銀保有分)を控除すれば、債務超過は残り131兆円になる。日銀は「純資産の部(正味資産)」が黒字(3.7兆円H29/3)なので徴税権(750兆円・高橋氏評価による額)を含めると、統合政府ベースでは債務超過(日銀保有国債を控除した残額131兆円)は既に解消されていることになる。

 私は自国通貨を発行できるという万能の権利を放棄して、デフレの最中に増税して、元も子もなくしてしまうことのほうが余程おかしいと思っている。

 新古典派といわれる経済理論、いわゆるサプライサイドの経済学は、規制緩和を促進し、非自発的失業は無視し、小さな政府を指向して構造改革へと突き進み、自ら「流動性の罠」に落ち込んでしまった。

 近年の経済学の学会では、新古典派の研究は殆ど目にしなくなっているそうだ。経済学部の学生のマクロ経済学の教科書は、クルーグマン教授、スティグリッツ教授やマンキュー教授が多く、新古典派のものは殆どないそうである。
 彼等は、ニュー・ケインジアンといわれ、新古典派の手法(数理モデル)によって研究しているそうだ。とはいえ、彼等は若く、メインストリームメディアが取り上げることはなく、政府の審議員にもなれない。

 
経済と政治哲学の分野においては、二十五歳から三十歳を過ぎてから新しい発想に影響される人はあまりいません。ですから公僕や政治家や扇動家ですら、現在のできごとに適用したがる発想というのは、たぶん最新のものではないのです。
 〔1〕「雇用、利子、お金の一般理論」より

 ニュー・ケインジアンの松尾匡教授の「不況は人災です!」から、通貨発行権のエッセンスに触れている部分を紹介する。
 
今の「財政法」の第五条では、政府が国債を日銀に持ち込んで、無からおカネを作ってもらって、それを財源にすることは禁止されています。
 でも、いまみたいな深刻な不況の中でこんなルールを続けることに何か意味があるのでしょうか。そもそも、増税しようが民間から借金しようが、民間にあるおカネを吸い取ってしまうことに変わりはないので、そんな方法で政府が支出しても景気拡大の効果はタカが知れています。・・・

 だから、財政法第五条がどうしてもネックになっているなら、それを改正すればいいし、そうでなくても、国会の特別決議があれば、政府が日銀に国債を持っていっておカネを作ってもらうことは認められています。
 それでも、ダメというなら、政府が民間に国債を発行しておカネを借りたあと、すぐさまその国債を、無から作ったおカネで日銀が買い取ればいいだけです。

 あるいは究極の手としては、コインは日銀でなくて政府が作っているものですので、政府が「百兆円玉」を一枚作って日銀に持って行って両替してもらって、政府の口座に100兆円振り込んでもらうというアイデアもあります。半分冗談ですけど、こんな状況のもとではあながち暴論ともいえません。
 〔2〕8年前の2010.7.5発行
 
 ケインズ「長期的には、我々はみんな死んでいる」
 嵐の吹き荒れる季節において、風雨が去ってずいぶん経ったら海はまたなぎますよ、としか言えないのであれば、経済学者はあまりに簡単で、あまりに役立たずな仕事しかやろうとしていないことになってしまう。

 日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている
 高橋洋一:嘉悦大学教授
 
https://diamond.jp/articles/dol-creditcard/119006

 参考書籍
 〔1〕松尾匡著「不況は人災です!」三松堂印刷㈱ 2010.7.5発行
 〔2〕ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」山形浩生訳
    講談社学術文庫 2013.4.12発行

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