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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

ワルラスの法則

庶民の困惑

 仕事柄、「経済」に無関心でいるわけにもいかず、手探りで「経済情勢概観」等の稚拙な報告をすることがある。経済学といえるほどのものではないが、それでも「さわり」程度の知識を得ようとするが手に余る。
 卑近な例を示せば、ケインズの「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を読んで、手もなく弾き飛ばされるありさまである。

 とはいえ、なぜ「非自発的失業」が生まれ「完全雇用」が達成されないのだろうか、設備投資という「長期期待」は予想利潤率(資本の限界効率)と利子率の均衡点である「利子」にある。ならば、「利子」を生まない「貨幣」をなぜ人々は選好するのか(流動性選好)、といったテーゼに興味は尽きない。せいぜい、そこまでである。

 その程度の経済の知識であるが、ふとしたことで「ワルラスの法則」を調べていて、
 経済を考える勘所 ―― ワルラスの法則について――飯田泰之・ マクロ経済学、を読みながら過去の疑念が甦った。

 
「ワルラスの法則は均衡においてしか成り立たない」といった中央銀行総裁がいた(*1)という噂があるが、それは誤りである。市場の分類をMECEに整えているため、この関係はいつでもどこでも成り立たざるをえない。
 注釈
(*1)
 白川方明日本銀行総裁のこと。さすがに経済学のPh.D.ホルダーが、ワルラスの法則を理解していないということはあり得ないので、ワルラス調整かワルラス均衡あたりと勘違いをしたのだと思われる(思いたい)。


 
説明を簡略化するために、「経済的になんらかの価値があるもの」は、世の中に、財やサービス・貨幣・その他の3種類しかないとしよう(4つ以上の市場がある場合でも、以下の議論は変わらない)。
 「その他」を含むため、この分類はMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive。脱漏・重複のない分類を指す)である。ここでいう「その他」とは、具体的には、土地、株、債券などの貨幣以外の資産などが代表的である。
 https://synodos.jp/economy/915


 飯田氏は上記の後段の前提で展開しているので、適用範囲の広い基礎的な理論ならば、もっと身近な素材で説明していただきたいと思ってしまった。  
 というのは、ずいぶん前に全く同じ印象を、浜田宏一東京大学名誉教授・イェール大学名誉教授の公開書簡から感じていたからである。 

 白川方明 日本銀行総裁への公開書簡より
 
2010年2月16日の衆議院予算委員会における、貴兄と山本幸三議員のやり取りからも明らかです。
 山本議員は「ある分野で超過供給があったら、他の分野では超過需要が起こっている」というワルラス法則に基づいて、「財の世界では35兆円の需給ギャップ、つまり供給過剰がある。そうするとおカネの世界ではその分だけの超過需要がある」と指摘されました。みなが貨幣にしがみついているときには、モノに対する需要が不足するということです。
 貴兄は、「ワルラス法則は基本的には完全雇用の世界での話ですから・・・・・不完全雇用、つまり大きな受給ギャップが問題になっている下でのワルラス法則を当てはめてというのはどうかなという感じ」と述べています。
 しかし、これはまったくの誤りです。ワルラス法則は経済主体の予算制約式を合計したもので、均衡下でも不均衡下でも恒等式として成り立つのです。
 モノが余っているときは、国民はより多くの貨幣を持ちたがっているときだ、ということです。そして、みんなが貨幣にしがみつかなくなるように、適切な貨幣供給を行えば、デフレからの脱却は可能です。

 〔1〕アンダーラインは青山、以下同じ

 上記二つは泰斗の論考であるので、庶民が容喙することではない。なので、私なりに納得できる「ワルラスの法則」についての解釈を紹介する。

 
以下、分かりやすく「Unobtanium = ドラゴンボール」とするが、つまり多くの人がドラゴンボールを欲しがったら、ドラゴンボールに対する需要が生まれる一方で供給はもちろんゼロなのでそれらは全て超過需要になる。そしてワルラスの法則が正しければ全ての市場の超過需要の和はゼロになるはずなので、ドラゴンボールに対する超過需要の分だけその他の市場では超過供給が発生することになる。

 ドラゴンボールの価値は計り知れないのでドラゴンボールを除く市場全体では大きな超過供給が発生し、結果として市場を混乱に陥れることになってしまう、、、
 もちろんそんなことは起こらないのでワルラスの法則はおかしい、という話である。

 ドラゴンボール市場はもともとこの世には存在しないのでワルラスの法則とは関係ないという意見もあるかも知れないが、別にドラゴンボールでなくても現時点での供給はないが需要は存在するものは幾らでも存在するのではないだろうか?

 例えば「来週発売されるジャンプ」はどうだろう? 現時点では世の中には存在しないが確実に需要はある。この需要がすぐに満たされることはありえないが、お金さえ取っておけば来週満たされることはほぼ確実である。
 そしてその為にみんなが小遣いを取っておこうと考えれば、貨幣と「来週発売されるジャンプ」を除いた市場には超過供給が生まれる。つまり将来の消費の為に現在の消費を手控えた結果、現時点で存在する市場だけを観測した場合「貨幣への超過需要」が生まれるわけである。

 そして「貨幣への超過需要」の正体(の一つ)が「将来の消費の為の現在の消費の保留」であった場合、この超過需要は単にその分の貨幣の供給を増やしても本質的には解決されない。貨幣の量が増えることによって来週のジャンプが値上がりするのであれば、結局相対価格が変わるだけで需給のバランスは変わらず、貨幣以外の市場の超過供給が解消されたりしないからである。

 現実問題として今日の貨幣供給を増やしても来週のジャンプがすぐに値上がりするわけではないが、貨幣・資産への超過需要というものが形を変えた「現在の消費」と「将来の消費」の間の超過需要・供給であると考えるなら貨幣の供給を増やして将来のインフレを誘発する政策が「現在の消費」への需要を高める(=貨幣への需要を減退させる)とは限らないはずである。

 これは以前書いた「貨幣への超過需要の意味を効用関数とリアルオプションで考えてみる 」という考察と同根の話である。
 貨幣・資産といった消費されないものに対する需要は最終的には何らかの形で消費されてこそ効用を産むわけで、せっせと紙幣を刷ってその実質的な価値を希釈しても本質的な解決にはならないというのは当たり前の話のような気がする。
 (凶作で米への超過需要が存在するときに米を小分けにして袋数を増やしても超過需要が解消されないのと同じ)

 つまり消費財の需要・供給と貨幣・資産の需要・供給は性質が違い、入手(消費)すること自体に価値(効用)がある消費財への超過需要は供給を増やすことによって解消することが出来る(例:たまごっち)が、貨幣への超過需要は単に供給を増やすことだけでは本質的には解消できないという事になる。

 もちろん経済は複雑であり、かつ人間は完全に合理的でもないので前提条件次第では紙幣を刷ることによって需給関係が改善するケースは恐らく存在するであろう。
 しかしそれは「波及経路(なぜそのような結論になるのか)や定量予想(効果を数字で表すとどのくらいになるのか)」のレベルで検証する必要があることであり、飯田先生の記事にあるようにワルラスの法則のような「多くの前提を必要としない基礎的な理論」は検証に多くの前提条件を必要とする波及経路や定量予想には答えることができないのであるから、ワルラスの法則をもってリフレ政策の是非を問うことは木に縁りて魚を求めるようなものであるというのが筆者の考えである。

 ワルラスの法則はリフレ政策を支持するのか?
 
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110207/129

 ケインズは、貨幣に対する需要(流動性選好)には3つの動機 があるといった。 それは、「取引動機(取引のため)」、「予備的動機(万一・好機のそなえ)」及び「投機的動機(利子率が関係する)」 である。


 参考書籍
〔1〕浜田宏一、若田部昌澄、勝間和代「伝説の教授に学べ!」東洋経済新報社
    2010.7.8



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