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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

国難と経済政策

かつて来た道は通れない

 安倍総理が憲法改正の意志表示をしてからの倒閣運動の異様さは、戦前の「ゾルゲ・尾崎事件」を彷彿させるような薄気味悪さである。

 トランプ大統領の制裁関税の動きも予断を許さない状況で、ここにきて北朝鮮を巡る動きも急展開してきた。
 さらに、来年は消費税増税があり、8%への増税で完全に景気が腰折れした苦い経験が甦ってくる。もはや、憲法改正は待ったなしの状況にありながら、「モリトモ騒動」で横道に誘導されてしまった。

 極東情勢という外的要因が絡むため、安易な予想は出来ないが、前回の過ちだけは繰り返さないようにしなければならない。
 そこで、もう一度8%増税時の議論を振り返っておこう。

 メイナード・ケインズの「美人投票」という有名な引喩がある。100人の写真から、最も美しい女性を6人選び、その選択が平均的な結果に最も近かった人に賞品が与えられる。この場合、自分が最も美しいと思う女性を選ぶのではなく、他の参加者の多くが投票するであろうと思われる女性を選ぶというものだ。

 消費税増税前に喧伝された「財政均衡論」、「今は、増税のタイミングではない」という主張は正しいと確信していたが、「美人投票」のような結果になってしまったのである。今更ではあるが、「財政均衡論」が「デフレ脱却」に優先されたことが悔やまれる。とどのつまり、金融政策を信奉するイデオロギーの圧力なんだろうと思う。


 当時の浜田参与の意見
 
物価が上がっても国民の賃金はすぐには上がりません。インフレ率と失業の相関関係を示すフィリップス曲線(インフレ率が上昇すると失業率が下がることを示す)を見てもわかる通り、名目賃金には硬直性があるため、期待インフレ率が上がると、実質賃金は一時的に下がり、そのため雇用が増えるのです。こうした経路を経て、緩やかな物価上昇の中で実質所得の増加へとつながっていくのです。
 よく「名目賃金が上がらないとダメ」と言われますが、名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。それだとインフレ政策の意味がなくなってしまい、むしろこれ以上物価が上昇しないよう、止める必要が出て来る。こうしたことは、あまり理解されていないように思います。
 ・・・それについては、本来私も金融政策だけで十分ではないかと思っています。ただ、政府内には「最後の一押しは財政政策が必要」という意見がある。一方、「金融政策で財政危機を救えるのに、財政で大盤振る舞いすると救えなくなるのではないか」と不安を持つ人もいて、私はどちらかと言えばそちらの意見に賛成です。

 「アベノミクスがもたらす金融政策の大転換 インフレ目標と日銀法改正で日本経済を取り戻す」 浜田宏一・内閣官房参与/2013.1.20 
 http://diamond.jp/articles/-/30804?page=6

 クルーグマン教授の意見 

 プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は緊縮財政に批判的だ。クルーグマンは日本経済について、インフレや資産価値の高騰によるバブルが問題ではなく、むしろ金融財政政策に対して過度に慎重だったことが問題だと指摘する。・・・「日本経済は(金利が極限まで低下する)典型的な『流動性の罠』にはまったままだが、こういうときに頼りにすべき財政政策は小出しにしかしてこなかった」と、クルーグマンは先日、ニューヨーク・タイムズ紙に書いている。その点、機動的な財政出動と真のインフレを目指す政策との組み合わせであるアベノミクスは正しい政策で、遅過ぎたぐらいだ。

 アベノミクスが得た意外な「援護射撃」/Newsweek/2013.5.15(現在リンク不能)
 http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/05/post-2927.php

 上記記事では、純債務がGDPの90%を超えると経済成長に深刻な影響を及ぼすという、ラインハートとロゴフ両教授による論文の間違いも指摘されている。

 以上二つは、相反する二人の泰斗の主張である。浜田参与は財政政策(公共投資)に否定的であり、クルーグマン教授は財政政策を重視している。
 浜田参与は、名目賃金を抑えてインフレ率を高めれば、実質賃金が下がり雇用拡大に繋がるという。いわゆる、上から下へお金はしたたるトリクルダウン理論だ。

 一方シラー教授の意見
 
中央銀行は経済を安定化させうるが、その力には限界があると述べ、日銀の異次元緩和に過度に依存した政策の脆弱性を暗に示唆した。
 アベノミクス、いつまでも成功続ける保証ない=シラー・イエール大学教授/ロイター/2014.3.12
 個々の政策は目新しくないかもしれないが、組み合わせた点が珍しいとシラー教授が指摘しているように、ベストミックスが生命線なのだが、「財政均衡論」が勝ってしまった。
 
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA2B04G20140312 

 消費税増税を強力に推し進めたのがこの「財政均衡論」である。政府債務はグロス(総債務)ではなく、ネット(純債務)で見るべきなのに、グロスの数字(H28年度は1222兆円)だけが活字になり、(あえて)ネットの金額(同549兆円)は無視され、財政政策を拘束して現在に至っている。
 
 消費税アップによるマイナス効果が大きかった場合は、5月の連休明けにも更なる金融緩和をする必要がある。
 http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000024085.html
 消費増税控え浜田参与「慎重論言うべきだった…」/テレ朝news/2014.3.29

 二度と、過ちを繰り返してはなるまい。それにしても、供給と需要が均衡するという「セイの法則」、貨幣を市場に供給すれば需要が生まれ、デフレは解消するというマネタリズムは、社会の底辺で蠢いている我が身には、まるでお伽噺のように思える。

 経済学史上、19世紀のイギリスは、貨幣の意義をめぐり議論が活発だった。貨幣と金の兌換により、貨幣に裏付けを持たす金本位制を重視する地金主義者と、反地金主義者の論争である。
 地金主義では、貨幣は金という商品との交換のための手段であり、便宜的に紙幣という姿をとっているに過ぎないと考える。言い換えれば、貨幣は金を代表とするあらゆる商品との交換の手段であり、物々交換経済のなかでの一つの商品に過ぎない。
 一方、反地金主義では、貨幣は「表象するもの」、つまり商品の価値を代理する「象徴」であり、一般の商品とは異なる特別な存在として位置づける。
 今日のマネタリズムもおおむね、地金主義と同様の貨幣観に立脚している。貨幣の供給(貨幣という商品売り)が需要(買い)を決定するから、供給と需要は一致し均衡するのである。「セイの法則」は物々交換経済を前提として、はじめて成立するのだ。
 マネタリストは、貨幣のない(貨幣は商品である)物々交換経済を想定しているから、デフレという現象を「単なる貨幣の不足」とみなすのである。斯くして、金融政策が信奉される。
 〔1〕69頁から75頁参照

 一方、貨幣を商品ではなくて、「象徴」とみなす立場では、「産業的流通」とは別に、貨幣特有の「金融的流通」が存在しうると考える。この「金融的流通」には、貨幣の三機能の一つである「価値貯蓄」が含まれる。
 
 デフレ下では、貨幣価値が高くなり「金融的流通」に貨幣が滞留し(貯蓄が増え)、産業的流通に流れない。この滞留している貨幣を、③国債発行により政府が吸い上げ、④公共投資により、産業的流通に強制的に流して景気を刺激するのである。財政政策が重要視される所以である。

 
古典派経済学が均衡概念を使用するのは、ニュートン力学の真似である。だが、参加者の期待が重要な役割を果たす金融市場では、市場が均衡点にむかって収斂していくという主張は、うまく現実に対応していないのだ。合理的期待論の場合、こじつけにこじつけを重ねて均衡が勝利する人工的な世界を強引に築き上げたが、その世界では理論が現実をうまく説明するのではなく、現実に合わせて理論が際限なく捻じ曲げられていくだけなのである。
 〔2〕101頁

 やはり、参加者の期待が重要な役割を果たす金融市場では、すべてが合理的な経済人とはなり得ないのだ。通貨を供給しても将来に不安があれば、貯蓄をし「金融的流通」に貨幣が滞留する。逆に、期待が大きくなればリスクもとるのである。

 こんどこそ、まともな財政政策を実行していただきたい。尚、不吉な予感ではあるが、極東有事場合の軍事支出も財政政策である。
 さらに余談だが、ニューディール政策に失敗したルーズベルト(FDR)大統領は、日本を挑発して危機を乗り越えたのである。


   〔1〕中野剛志著「保守とは何だろうか」NHK出版新書/2013.10.10
   〔2〕ジョージ・ソロス著「ソロスは警告する」徳川家広訳/講談社/2008.9.1



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