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税理士・社会保険労務士
青山税理士事務所
  

経路依存性


パラダイム・チェンジ

 戦後45年間、日本は戦争に関わることもなく軽武装・経済成長によって繁栄を謳歌してきた。冷戦の恩恵という奇跡のような状況を誤認して、1990年8月2日、イラクのクウェート侵攻をきっかけに国連(United Nations)が多国籍軍の派遣を決定した時に、総額135億ドルを拠出した。ところが、「金だけ出して人を出さない」と世界中から非難を浴びることになったのである。

 国内では、冷戦終結というパラダイム・チェンジの最中に、政治改革というわけのわからない政争に明け暮れ内向きになっていった。金丸信の佐川急便闇献金事件が発覚して1992年10月に衆議院が解散、1993年には小沢一郎氏が離党、1993年8月に細川内閣が成立し自民党が初めて野党になった。
 1996年の衆議院選挙から小選挙区制度が採用され、ポピュリズムによって凋落が始まっていくのである。

 経路依存性とは、制度や仕組みが歴史的な偶然等によって固定されることをいう。よく例えられるパソコンのキーボードのクウォーティー配列は、入力のし易さから考えられたものではない。むしろその逆で、早打ちによってタイプバーが絡まないように考慮された等といわれている。いずれもパソコンのキーボードとは何の関係もないけれど、この配列が普及して今の標準になっているのである。

 ことほど左様に、冷戦時の軽武装による経済成長という、アメリカの戦略によって生まれた偶然が私たちから危機感を奪っている。
 政治家も冷戦終結というパラダイム・チェンジを内向きの政争で明け暮れ、国民はデフレという異常な状況に20年以上甘んじているのである。

 国民国家は経路依存性を持った「かたまり」であり、個々の意志によって左右されるものではない。政治がポピュリズムと化し、キャンペーンガールが野党の党首になり、与党も憲法改正を解釈変更という小手先の小細工でごまかしても基本的な構造は変わらない。
 今や、日本全体が経路依存性に支配されているのではないだろうか。

 昨年末に、中野剛志著「富国と強兵」と篠田英朗著「国際紛争を読み解く五つの視座」が上梓された。いずれもプラグマティックで、混迷期の処方箋として縋るような気持ちで読んだ。経路依存性を克服するには客観的な思考が求められると痛切に感じた。
 幸いなことに、「国際紛争を読み解く五つの視座」はウェブサイトに著者の解説がアップされているので、五つの視座というツールを参考にされてはいかがだろうか。

 私たちはどんな時代を生きているか〜世界を覆う新しい「戦争の構造」
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50566

 
東アジアには「勢力均衡論」、ヨーロッパには「地政学の理論」、中東には「文明の衝突論」、アフリカには「世界システム論」、アメリカには「成長の限界論」という視座を適用し、各地の紛争の構造的な背景も明らかにすることを試みた。

 東アジアでは新たな超大国・中国の台頭が、伝統的な地域の「勢力均衡」を揺るがせている。

 ヨーロッパでは、ウクライナ情勢が硬直化している間に、シリア問題への対応をめぐるロシアとトルコの間の駆け引き、難民大量流入をめぐるヨーロッパ諸国とトルコの間の駆け引きが顕在化した。そのなかで「マッキンダー流の地政学」でユーラシア大陸の政治情勢を見る視点が、いっそう重要になった。

 ユーラシア大陸の東と西で、「勢力均衡」「地政学」の視点から理解すべき権力政治の動向が激しくなっている。

 中東内部に西洋文明の暴力が入りこんでしまえば、中東内部において「文明の衝突」の現象が誘発されるようになる。そしてヨーロッパ人が定めた国境線を超えたイスラム主義の運動が必要だという議論が勢いを持つようになる。さらに、そのことがかえってイスラム文明の内部の紛争も誘発するようになる。
 「文明の衝突論」は、対テロ戦争の時代における西洋対イスラムという対立図式だけでなく、真正なイスラムの代表をめぐる地域内の「内戦」の構図にもかかわる視点なのだ。

 基本的な構図として、北アフリカでは「アラブの春」以降の中東の混乱が、継続して発生している。サヘル地帯の諸国では、イスラム過激派勢力が台頭し、紛争状態が蔓延している。ボコ・ハラム、AQIM、アル・シャバブなど、アルカイダやイスラム国の影響を受けているテロリスト勢力が紛争に大きくかかわっている。今日のアフリカの戦争は、中東を震源とする紛争構造に大きく影響されながら進展しているのだ。
 1990年代以降、世界の地域紛争分析の主な対象は、アフリカだった。甚大な「格差が広がる世界システム」の中で、冷戦終焉の余波を最も激しく被ったのがアフリカだった。

 トランプもまた、国際協調主義からは逸脱するとしても、なお経済面において、そして軍事面において、アメリカの利益を確保するかたちで「無限の成長」を追い求める大統領になるのではないか。 

 特に東アジアにおいては、チャイナの驚異的な軍事力の拡大により勢力均衡(バランス・オブ・パワー)に変化が起ころうとしている。勢力均衡はジョン・ミアシャイマー氏がいうように、アメリカ単独で全世界を支配することは不可能であり、アメリカが西半球で行ったような地域覇権ならば可能なのである。その上で、他の大国が他の地域で覇権国にならないようにすることがアメリカの戦略だった。ヘンリー・キッシンジャー氏を嚆矢とする「瓶の蓋論」を想起すればいいだろう。
 とはいえ、今後10年間のチャイナの動向によっては東アジアの勢力均衡が崩れる可能性が高くなる。

 では、新たな勢力均衡とはどのようなものになるだろうか。
 このままチャイナの拡大が続けばチャイナは間違いなく東アジアの覇権国になるだろう。東アジアでチャイナが覇権国家になれば、アメリカと世界的な二極体制の勢力均衡の構図になる。日本がチャイナに呑み込まれる最悪のシナリオである。
 もう一つ考えられることは、東アジアにおけるアメリカ勢力(当然日本が含まれ、オーストラリアまで考えられる)とチャイナの地域的な二極による勢力均衡である。日本が思い描く構図だろう。巷間伝えられる韓国問題も、この視点を忘れてはなるまい。

 日本人もいい加減に経路依存性を克服すべきだろう。そのためには、マスメディアの垂れ流すゴミのような情報をスルーする作業が求められる。その選別は感情ではなく、「富国と強兵」や「国際紛争を読み解く五つの視座」が提示するプラグマティズムである。
 幕末に会沢正志斎の「新論」が写本によって広がったことを思えば、現代人にとってはなにほどのこともないだろう。

 尚、「富国と強兵」は著者自身が最終章でこの本の総括は難しいというほど、あらゆるアカデミックな知見が散りばめられている。是非読んでいただきたい本である。主流派経済学の欺瞞に気づかれることだろう。


  参考文献
 〔1〕中野剛志著「富国と強兵」東洋経済 2016.12.22
 〔2〕篠田英朗著「国際紛争を読み解く五つの視座」講談社 2016.12.10



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